城焼職人「大城幸男」

泡盛を最高の状態へ導く琉球城焼
なぜ泡盛メーカーである忠孝酒造が焼物を造るのでしょうか?
忠孝酒造の初代会長である私の父、大城繁が陶磁器で有名な多治見に旅行で訪れた際、ふっと立ち入った陶芸教室のロクロで抹茶腕を作りました。すると、先生から「初めてとは思えない」と褒められるくらい、スムーズに成形したそうです。それが、焼物との縁の始まりだったのかもしれません。
泡盛業界では、長年「漏れる甕」に苦しめられてきました。従来の陶器製の甕では焼き締めが弱く、泡盛を長期保存する際に徐々に酒が蒸発してしまうことから、クレームが多く発生していました。
「甕熟成が良い古酒を育てる」ということを酒造家も皆知っている中で、貯蔵甕の研究が遅れていた時代のことでした。
父は、多治見での陶芸との出会いから、「泡盛貯蔵甕」を造るのが自分の使命だと直感。社長業を長男である今の社長(大城勤)に譲り、本格的に甕造りをスタートさせました。父が52歳の時です。

琉球城焼の特徴, 他の焼き物と違う点はどんなところでしょうか
最大の目標は、「漏れない、泡盛の味を向上させる甕」である事。
まず、甕の材料となる最適な土を探しました。若い頃農業の経験もある父は、沖縄独特のやわらかくてきめの細かい土「クチャ」に目をつけました。特に、忠孝酒造の地元・豊見城で採れるクチャは焼き上げると密度が極めて高く、焼成をすると容積が45%まで収縮する特性を持ちます。
琉球城焼きの甕を叩くとまるで金属のような澄んだ音が響きますが、この音こそ、焼き締めの高さを表現しています。これにより、泡盛が漏れにくくなり、熟成に最適な環境を生み出します。もちろん、最初からうまくいったわけではありません。
土の配合、火の入れ方、窯の温度管理など、さまざまな要因によってひび割れ破損が発生しました。試行錯誤の末、沖縄南部で採れる「沖縄ジャーガル」と、北部で採れる「琉球赤土」をブレンドすることで理想の甕、琉球城焼きを完成させました。

見た目の色合いや模様にも独特の美しさがあるように感じます
琉球城焼は、一切釉薬を使いません。甕の表面の色相は、何種類かの薪などを入れることにより、「窯変(ようへん)」という独特な炎の景色を生みだしています。
この模様は、会長のこだわった部分です。甕としての機能性はもちろん、置物として見た目の芸術性も重視しました。
忠孝酒造では3つの窯を使用していますが、「どの窯を使うか、窯のどこに甕を置くか」によっても、仕上がりの色や模様が変わります。薪の種類や炎の当たり方など、さまざまな要因が絡み合い、唯一無二の甕が生み出されるのです。

甕造りで大変だったこと、苦労したことはありますか
私は、元々営業を担当しておりました。父が陶芸を始めたことで、後継者として自分に白羽の矢が立ったわけです。
父から直接手取り足取り教わることはなく、私は見様見真似で甕造りを学びました。
大きな甕を造る作業は、肉体的な負担が大きいものです。土を伸ばすためには強い力が必要な一方で、指先の繊細な動きも求められるため腱鞘炎になることもありました。また、ろくろを回しながら作業するため、腰への負担も大きく、身体を酷使する仕事です。
焼き上げの工程では、ガス窯を1100度前後まで熱し、約4日間かけて焼き上げます。しかし、温度管理が非常に重要で、たった10度の違いが「酒が漏れる甕」になるかどうかを決めてしまいます。そのため、常に窯の状態を見極めながら、慎重に焼き上げを行っています。
また、土の調整にも苦労しました。あるとき、焼結後に「ブク(小さな泡)」ができる問題が発生しました。しかし原因が分からず、本土の専門機関に調査を依頼しましたが、明確な答えは得られませんでした。試行錯誤を続けること約2ヶ月、ある雨の日に土を観察していたとこる、雨で溶けた石灰が流れ込んでいるのを発見しました。これが土の異変の原因だったのです。

琉球城焼りでのこだわりや大切にしていることついて教えてください
最も大切にしているのは、「甕酒に込められたお客様の想い」です。
結婚、子供の誕生、退職など、その節目節目で甕をご購入するお客様が多いのです。想いを熟成させ、何十年後かに開封する際、喜んでもらえる泡盛でなくてはいけないと思っています。そのため、二度焼きをして徹底的に焼き締めにこだわっています。
中身の泡盛に関しては、兄である現社長が品質の高い泡盛の研究開発をしてくれているので、心強く感じています。
琉球城焼きで熟成させた泡盛が、イギリス開催の世界で最も権威性の高いIWSC2024「焼酎・泡盛部門」で、99点という最高得点の味の評価を受けました。
これまでの努力が報われた瞬間でした。現在90歳になる父も涙を流して喜んでくれ、何よりの親孝行だと思っています。
礎を作ってくれた父に感謝しながら、今後も、酒造メーカーとして責任を持って、世界に誇れる泡盛の貯蔵・熟成甕の開発に、力を注いでいきたいと思っています。